もう1つの「PJMC」
そう「PISTOL JAZZ MIDNIGHT CRUE」

グリースを撫で付けた頭、そしてオイルを塗り込み鈍い光を放つ履き込まれたエンジニアブーツ。タンクトップ、もちろんボトムはロールアップしたヤツを細目にキメる。

そして「PISTOL JAZZ」のロゴが渋くプリントされたシャンブレーシャツ、上には青燕の背負うTATTOOをデザインした、チャコールチェックのネルシャツをジャケット代わりに羽織るのが奴等「PISTOL JAZZ MIDNIGHT CRUE」のスタイル。

あと忘れちゃいけねーのが、胸元には奴等を見分けるトレードマークがぶら下がってんだよな。
まずは青燕への敬意を表してデザインされたと言われるスワローのペンダントトップ。裏には意味深にも「DEATH OR GROLY」がスカルと共に刻まれる。
そしてもう1つは「PISTOL JAZZ MORTORCY CLUB」奴等の鉄馬への愛を最大限にリスペクトしたホースシュー。

「PISTOL JAZZ MIDNIGHT CRUE」
コイツ等の話し
 
最新型波動ウイルスの影響力は強く、「PISTOL JAZZ」のGIGは、エネルギーをもて余した連中達がハイエナの様に集まり、毎夜暴動寸前。ボルテージはMAXと、噂が噂を呼び、フロアは更に過激さを増す一方で、ハコの治安もギリギリ保たれてるってのが正直なトコ。

CLUB13 midnight

「PISTOL JAZZ」そして「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」の奴等への度胸試しとばかりに、バカに派手に騒ぎやがる集団が目立つ。
いつもの調子なら親衛隊「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」も全く相手にもしやしないのだが、ちょっとその数も尋常じゃない。
そして今日のお行儀の悪い奴等は明らかに「PJMC」よりも多い。
アイツ等の狙いは一目瞭然、名前を売る事。
それも「PJMC」をヤレば一発で噂が広がる。

「ヤベーかもな」
VIP ROOMのTigerboyも不機嫌だ。

近頃じゃ13crueの連中も、ハコに入り切れない奴等を通りで暴れさせない様にするのが忙しく、中までとてもじゃないが手が回らないないのが現状。

「アニキ、悪いな」Tigerboyが口を開く。

「まあ、気にしんさんなや」暗闇でもサングラスを外さない、MAD JEWELRYと呼ばれる男が一升瓶をあおる。

「しかし今日はまた派手にやっとるのお。ありゃどこのモンじゃ?」
一言口にする度に、一升瓶が空になるんでヤツの足下は空瓶でゴロゴロだ。
キッチリとクシが通された、ポマードで撫で付けられたサイドバックスタイルのリーゼント。着流し姿に下駄、施された彫り物は自分で突いた物も多数。片手に木刀、胸元にはヌンチャクと、その出で立ちは色んな意味でアブナ過ぎて誰の眼にも理解不能。一説に寄ると素手で人を殺める訓練を受けた事も有るらしい。

「アイツ等、THE BREAKER UNIONだ」
TigerboyのイライラもMAXに、豹柄のソファーに身を沈めながらもフロアから目を離さない。

「THE BREAKER UNION」
最近LIVE JACKと称してハコの乗っ取りを続ける事で勢力を増す集団。コイツ等が崇めるカリスマなんてのはただのお飾り程度のヤツ。アイツ等は乗っ取りを口実に暴れたいだけ。そして傘下を増やし、テリトリーを拡大。
コイツ等のカリスマは「THE BREAKER UNION」と手を組む事で名前が売れると、価値観を見出だしたゲスなバンド「SICK BOYS」。メンバー全員がトロージャンで、病的に痩せ細ったガリガリの体に重すぎるであろう鋲ジャンとブラックスリムパンツ。ガソリンばっか吸ってやがるんで脳ミソは溶けちまい、会話がまともに成立しない。ゆえに演奏もサイテー。最近じゃ一曲まともに演奏出来た事なんてありゃしない。

「ヤベーよな、このままじゃ…」
熱を帯びたフロア。このまま何も無い訳はない。
「さ、どうすっかな」

繋ぎの美学を全く無視したDJ Jah Professerのお出ましだ。

オーセンティックなDUBサウンドは、低音凄まじい破壊力で容赦なくハコを揺らす。
「PISTOL JAZZ」を待ち切れない奴等が足を踏み鳴らし、有らん限りの声で「PISTOL JAZZ」を呼び怒号を上げる。

「ほいじゃが言うてチェックしとるはずじゃのに、アイツ等どっから入ったんかいの?」

MAD JEWELRYがまた一升瓶を空ける。

「アイツ等のエンブレム無かったら、13crueも分からんでしょ?全然関係無い客脅して、外でアイツ等のチームのブルーのバンダナとFTW BREAKER UNIONのキャップを持たせて中で受け取るってわけ。それでこの有り様なんよ」
今日もTigerboyはチカーノスタイル。まだまだオーバーサイズのワーカージャケットのバックにはもちろん13。眼は相変わらず「THE BREAKER UNION」をニラんだままだ。

VIP ROOMのドアが開く。Aco Babyだ。
「MIDNIGHT CRUEが中に入れなくて外で飲んでるよ。チケットないの?Tigerboyは?って」
階段を掛け降り外のBARへ向かう。
「今日はまた随分お前ら遅かったなあ。」
見たところ20人位か?揃いのタンクトップに首から下がったトップが奴等の象徴。そうスワロー&ホースシュー。

「ゲストの枠空けてやるよ。あと入れば分かると思うんだが、やたらとTHE BREAKER UNIONが目立ってやがるんだよ。あとは任せるわ。あ!だがウチ等のNo Violenceの信条、これだけは分かってるよな?」

THE STATEは、相変わらずの能天気。自分達を中心に世界が廻ってるってもんで、全てがゴリ押しに、今日も気に入らない国が有るってことで、進行に余念が無い模様。
一時期はTHE STATEの武器の品評会の為の紛争は世界規模でNOを叩き付けた。
その事をTHE STATEは紛争への異常な執着心から、同盟国へ圧力を掛け、THE STATEへと強制加入とさせる事で、THE STATEの脅威を感じさせる事に成功。NOを叩き付けた国は、次々とTHE STATEのターゲットとなり餌食となり吊し上げを食らう。
THE STATEの属国になり下がった国は、毎度毎度予定調和の世界規模の扮装に手を染める事でTHE STATEのご機嫌を伺い、THE STATEの武器を買い漁り、THE STATEを益々ブタの如く肥大化させる。
THE STATEの属国となる事で、全ての目的をTHE STATEへの忠誠とした国。
ま、この国なんてTHE STATEの属国へとなる為に長い年月を掛けたテストサンプルとされた国。

THE STATE is No.1!

DJ Jah Professerがダウンテンポに「Police&Thieves」をリバーブ最大にプレイ。

飛び交う空瓶に、「PISTOL JAZZ」を呼ぶ声。THE BREAKER UNIONの連中が前列を陣取ろうと乱暴に人垣をかき分ける。

重たい防音扉が開く。
熱を帯びたフロアに一瞬緊張が走る。
MIDNIGHT CRUEだ。

最前列にたどり着き、余裕の表情で「PISTOL JAZZ」の出番を待つTHE BREAKER UNION。MIDNIGHT CRUEの登場にはまだ気付いていない。

ステージの下、鉄柵とTHE BREAKER UNIONの間には警備に立つツナギの姿のPISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB。選ばれし者。そしてエンブレムが持つ威圧感がハンパじゃない。

No Violenceが信条。

TigerboyがVIP ROOMの扉を開けると同時に口を開く。
「アニキ、何やってんだ?」

鏡の前でブルース・リーよろしく、トラックスーツにヌンチャクでポーズを決めたMad Jewelry。
「何じゃ言うて、ここは愛と平和の使者として、行かにゃあいけんじゃろ」

「アニキ、それはありがたいが、まあ見とってや」

「No Violence。それはアニキにも教えてもらった事だからよ」
フロアを見下ろすTigerboy。

「上手くやってくれよ。Midnight Crue」

未だハコ内への「MIDNIGHT CRUE」の登場に気付かず、相変わらず余裕の表情で期を伺う「THE BREAKER UNION」

柵前警備の「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」への挑発が、最早度を越えている。

「PISTOL JAZZ」の登場へ向けて、益々熱を帯びるフロア。

人混みを分けて入る「MIDNIGHT CRUE」

「アイツ等完全に挟まれちまったな」
VIP ROOMからフロアを見下ろすTigerboy。

「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」そして「MIDNIGHT CRUE」
その間で全く身動きの取れなくなった「THE BREAKER UNION」

ヌンチャクを軽快に振り回すMad Jewelryを背に、隣の楽屋のドアを開けるTigerboy。
「Are you ready?」

通りでは期を逃した「THE SICK BOY」の連中が、ガソリン欲しさに暗闇の中、側の単車のタンクをこじ開ける。背後からお約束のごとき突然のオーナーの声。
冷や汗が背中を伝うと同時に、タンクの中に灯り代わりのライターを落としちゃうんだよなあ、これが。

ハイ!THE END!!!

派手に火柱が上がるねぇ。

DJ Jah Professer spesk
「You!You!You!You!You!」

「ワオ!外では火柱が上がってるらしいぜ」

「被害はナンと、THE SICK BOYSの連中と単車数台」

「どうやらTHE BREAKER UNIONの単車だってよ。帰れるの〜?子猫ちゃん達」

「ラスタフォーラ〜イフ」
フロアには目一杯のダウンテンポにリバーブ最大で「WE'A'ROCKERS」がスピン。

「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」に「MIDNIGHT CRUE」、そして挟まれた「THE BREAKER UNION 」

「あ〜あ、何かムゴいな。アイツ等どうすんだろ?ダッセ〜」
VIP ROOMから見下ろすTigerboy。

外で派手に上がる火柱をバックに、窓際ではヌンチャクキメキメでバッチリポーズを決めたトラックスーツのMad Jewelry。

「あれ?そう言えば、アニキいつの間に着替えたん?まさか下にいつも着てんの?」

「これも愛と平和の為じゃけぇ。ワシぐらいは爽やかに決めにゃあいけんけえのう。」

外では自慢のトロージャンが焦げた「THE SICK BOYS」が事態を飲み込め無いまま火柱を見上げ、通りにヘタリこむ。
「ガソリンコワイ、鋲ジャンオモイ、バンドカイサンカイサン…」

サウンドシステムから響き渡る重低音。

完全に包囲された上に、ハコの外で起こった想定外の出来事に「THE BREAKER UNION」の連中の顔色も悪く、お祭り気分も吹っ飛んだ上に逃げ場も失い、自分達の置かれた状況すらも理解出来て無い。

こうなったら問題ねーなと、VIP ROOMからフロアに合図を送るTigerboy。
気付いた「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」と「MIDNIGHT CRUE」が、「THE BREAKER UNION」に道を開ける。

人混みをかき分け、とにかく外へ出て逃げる事だけを考える「THE BREAKER UNION」

「You!You!You!You!You!」

「お前の敵を間違うんじゃない、見失うんじゃない、勘違いするんじゃない、目を見開け、魂を共鳴させるんだ、俺達は自由〜!」

「ラスタフォーライフ〜!」
ディレイを最大にDJ Jah Professerのspeakがフロアに響き渡る。

「GO!PISTOL JAZZ! GO!!!」
楽屋にTigerboyが叫ぶ。
「PISTOL JAZZ」の面々が立ち上がる。青燕がファイヤーバードに手を掛ける。

ソファーに身を沈めながら、VIP ROOMを見渡し気付く。
「あれ?アニキがいない???」

振り向かず、足早に単車を停めた場所へ向かう「THE BREAKER UNION」
焦げたトロージャンの「THE SICK BOYS」と焦げた単車を遠巻きに酒を飲む野次馬達。
置かれた状況を理解した「THE BREAKER UNION」の連中が、通りにヘタリ込みうなだれる。

追い討ちか?ヌンチャクにイエローカラーのトラックスーツ、サングラスにリーゼントの男がその場へ怒号を上げる。
「ワシは愛と平和の使者!爽やかにキメるぜ!」

そこに居合わせる、全ての奴等がざわめく。
顔が強張る「THE BREAKER UNION」

「何じゃ言うてもNO VIOLENCEじゃけぇ、そがいにビビりんさんなや。ちいと話があるだけじゃけぇ」
サングラスの奥の優しき瞳を携えたMad Jewelryが一升瓶を空にする。

外の異変に気付いたTigerboyが、窓から通りを見下ろす。
「アニキ、いつの間に何やっとるん…」

TigerboyとMad Jewelryの出会いは、Tigerboyがバビロンシステムへと疑問を持ち始めた2歳頃に、夢の中で「ONE LOVE」を唱えるドレッドヘアーのカリスマに案内された事かららしく、Tigerboyが現実界でその夢の話をクソ真面目に話した事で気難しがり屋のMad Jewelryにしては珍しく、意気投合した事がキッカケらしい。

軽快にステップを踏むMad JewelryがTigerboyに気付き微笑む。

ハコの中、SEに切り替わった事でフロアに独特の緊張感が走る。待ちにまったヤツ等が登場だな。

ステージには暗闇に浮かぶ3人のシルエット。
「We are PISTOL JAZZ!!!」
一斉に弾け飛ぶフロアの客、客、客。
止まぬダイブ。興奮をMAXに「PISTOL JAZZ」も応戦。

今日は華やかにダンサーも登場だ。

極度の緊張感の中に放たれるサウンド。
極上に純度も高い。静脈に打ち込みな。
それにしても今日はいつも以上にヤベー。

満足そうにフロアを見下ろすTigerboy。青燕と目が合う。お互い笑みを交わす。Aco BabyはPISTOL JAZZのサウンドで夢心地。
良い夜になって来たな。

「PISTOL JAZZ」真実

愛と平和の使者「Mad Jewelry」が「THE BREAKER UNION」に問う。
「ワシ等は皆仲間じゃろ?何が真実か分かっとるじゃろうが。」

「あがーな悪さばっかしとってどうするんや?ワシ等は仲良うせなーいけんのじゃけえ」

「ほいじゃが言うてこれからどうするんじゃ?おどれ等、どこに行っても通用せんのんど」

「ま、ワシが何が言いたいか分かっとるんじゃろうけぇ、一晩よう考えんさいや」

「ワシは愛と平和の使者!爽やかにキメるぜい!」
自慢のリーゼントにクシを通したトラックスーツの「Mad Jewelry」のステップが軽快に響き渡る。そして首元に下がるアゴの部分が稼働するシルバー製のドクロのトップが同じリズムでカクカクと動き、全てを見透かした様に笑っているのが印象的だった。