奴等は「PISTOL JAZZ」ってスリルと狂気をサウンドの売りとするイカれたバンドの親衛隊「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」。

そんな奴等が愛用するこのジャンプスーツのバックには、もちろんあの「PISTOL JAZZ」のシンボルとも言えるエンブレムが。
そのメンバーである事を許された証を背負える事はって、やっぱ奴等としても誇りでも有り、気合いも入るってもの。

そんな奴等は「PISTOL JAZZ」が爆音をブチかますハコでもクルーとして存在感は絶大で、周りの奴等から常に一目置かれるのは当然と言えば当然。

そして奴等は架空都市の闇にエンブレムを放ちながらノイズを響かせる。

 
この街には奴等の決まったテリトリーなどは存在せず、もちろんどこに行こうと自由。

なぜって?奴等は走る事が全て。
元々群れる事を嫌う奴等は、単独での走りと背中のエンブレムが全てで有り、それ以上は何も求めない。
そんな奴等にケチ付ける輩などいるわけもない。そうだろ?

Locals onlyとデタラメにペイントされたサインが掲げられた金網が見えて来た。
そうあのロックンローラーにより名付けられた通り「13th Avenue」
ここを縄張りとする13crueと奴等はもちろん友好関係。トラブルなど在るわけもない。
いつの間にかあの「PISTOL JAZZ 」のエンブレムを背負った揃いのジャンプスーツを着た奴等が集まって来たようだ。

お目当ては0013番地。
夜な夜な自慢のサウンドシステムを携え、イリーガルに経営される13th RECORDが今日もド派手にDUBサウンドをブチかます。
ここのDJは、今どきいるか?って思わず言いたくなる位のオールドジャマイカンスタイルは、繋ぎの美学を全く無視したプレイの手元を見るとターンテーブルはたった1つ。
そのDJは揃いのジャンプスーツに気付いたのか、敬意を表したかの様な奇妙な躍りと共にPISTOL JAZZのナンバー「chicano gang」をプレイ。
こうなって来ると奴等からDJへの挨拶がてらの自慢の排気音が鳴り響く。

良い夜になりそうだ。
 
そう言えば「PJMC」奴等の単車には、例えおふざけでも触れる事はご法度だ。
今も女の前で意気がって跨がろうとしたヤツが「PJMC」エンブレムに気付き、ブルってやがる。

奴等のエンブレムは「PISTOL JAZZ」のあの骸骨マークを中心に、親衛隊って事でサークル状にぐるりと取り囲む文字はもちろん「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」

「PISTOL JAZZ」の親衛隊で在ることと、走りをメインにしたチームなんで、ヴァイオレンスなんて求めていない。
もし単車に触れるヤツがいても、トラブルを片付けてくれるのはそのテリトリーを預かる奴等。ここだったら13crueだな。
それくらい奴等は敬意を表されている。

独特のエキゾーストノイズが聞こえて来やがった。
群れる事を嫌う「PJMC」の奴等が今夜13th RECORDに集まって来たのが分かったぜ。あの海賊のお出ましだ。
奴の名は「青燕」
本名なのかどうなのか本人も知らないらしいが、そんな事はこの街では誰も重要とはしないので関係無い。
揃いのジャンプスーツを着込んだコイツも、ファイヤーバードの次に大事な鉄馬には「PISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUB」のエンブレム。
そしてそれ以上でもそれ以下でもない、No.0はコイツの特権。

そのヤツが何しに来やがったかって?
青燕の今日の任務は中毒性の強いウイルス紛いの「PISTOL JAZZ」のイリーガルな音源を親衛隊と共に持ち込みってわけ。
艶消しのブラックが不気味な、今では全く見ることの無くなったバンのリアにはもちろんあの骸骨マーク。
親衛隊の手により運び出される大量のBOX。
いつもだったら暴動寸前を誰もが覚悟するもの。
だけど今日は違うんだ、「PJMC」そして青燕がいるからよ。

13th RECORDのサウンドシステムから強烈に太いリズム体にスリリングなギターが絡み付き、13th Avenueに鳴り響く。
まだ誰も聴いた事の無いナンバーが弾きだされた事で、聴き入り静まりかえる親衛隊。それを横目にニヒルに口を歪める青燕。

そろそろ導火線に火が付く頃だ。
 
湿度80%、夜だと言うのに気温も30度を越えたまま。一年の大半がコレってどうなんだろう?
一説によると地軸が擦れただのなんだのが原因らしいが、そんなのは通りの奴等には全く関係無い。

サウンドシステムから響き渡る「PISTOL JAZZ」に聴きいる悪タレ共に、当然だなと満足した表情で見下ろす小さな影。
Rotten&Vicious兄妹だ。
兄貴の方はまだ6歳とか言ってるが、Rottenと呼ばれるのを嫌い、最近まともに言葉を覚えたくせに自らを「TigerBoy」と名乗る生意気なガキだ。
妹のViciousときたら、まだ1歳だったけかな?サイコーの称賛とばかりに顔を歪めて青燕へお得意の下品なフィンガーポーズ。

いつの間に降りて来たのか、独特の挨拶を青燕とチカーノ気取りのTigerBoyが交わしてやがる。
なぜ青燕がこのクソ生意気なガキと対等に付き合ってんのか誰も定かな事は知らないんだけど、有名なカリスマ扱いのヤツ、誰だったっけかな?そうだ、トレードマークがリーゼントだったか白のスーツだったか、とにかくKINGと呼ばれるヤツだ。
そいつに生まれる前に会った事が有るってクソ真面目に青燕に会う度に話しやがるんで、青燕もサスガに根負けしたってのが専らのウワサ。これが本当のハナシだったら青燕も相当に洒落の効いたヤツだな。

total time359秒
title no name
青燕によるサプライズ。

響き渡ったその後は今日のメイン、つい先日のLIVEの音源にDJがチェンジ。
こっからはもう好きに楽しんで良いぞと、青燕が右手を挙げる。
合図とばかりにサウンドシステム脇のバーカンに通りにいた奴等が一斉に群がり、「LIVE BOOTLEG」とプリントされたCDが次々と皆の手に渡って行く。ここでもしっかりと親衛隊「PJMC」と13crueが誰に命令されるでもなく、きっちり仕事をこなしてやがる。ノートラブルが奴等の流儀だからな。
今じゃ情報なんて脳内に直接インストール出来る様になってるにも関わらず、相変わらずCDのバラマキが「PISTOL JAZZ」のスタイル。
しかも青燕ってヤツは自ら行うもんだから、感染性は異常に高い。どこまでもキレるヤツだ。

TigerBoyが青燕を自らの経営するBARへ促す。BARと言っても、通りにソファーとイスを並べただけの、全くのイリーガル営業甚だしい、図々しいだけが取り柄の店だ。
BGMはもちろん13th RECORD、メニューは周りの店に持って来させやがるんで全てデリバリー。ムチャクチャだ。
青燕も分かっていながら付き合いやがる。
しかしTigerBoy曰く、この営業スタイルのおかげで通りを誰が歩いてるか一目で分かるから治安維持になるんだよと。どこまでもムチャクチャなヤツだ。

でもここにも唯一のメニューが有るんだよ。
ヤツしか手に入れる事の出来ない高濃度酸素。何でも地軸の関係で、南極って所の地下からドえらい昔の湖が恐竜と共に発見されたらしく、そっからの産物らしいってんで評判も上々。
一発で頭スッキリ、スモッグでタダれた脳ミソに刺激を与えてくれるってんだからサイコーじゃねえか。
コイツを唯一調達してんのが、あのTigerBoy。皆もコイツを欲してやがるんで、ここのイリーガル営業にも誰も文句を言えなくなるわな。
これはウワサによると、わざわざ左利きにギターも持ち替えた、サイケなアフロヘアーの黒人がTigerBoyを夢でギターを燃やす儀式と共に導いたことかららしい。

いつの間にやら揃いのジャンプスーツの親衛隊もくつろいでやがる。
もちろんシートは全て貸し切り。
今夜は親衛隊のエンブレムでリザーブ済み。

「そろそろ余興とするか」

高濃度酸素でますます上機嫌になった青燕がやっと口を開きやがった。

「エンジン温めとけよ」
 
「PJMC」のエンブレムを持つジャンプスーツがこれだけ揃うとそれだけで圧倒されちまうものだが、単車まで並んじまうと迫力がハンパない。

そのPISTOL JAZZ MOTORCYCLE CLUBのメンバーになるには幾つかのルールが有る。
代表的なルールを説明すると、まずは単車を所有すること、そして群れないってこと。
普通の単車チームってヤツはスピードと度胸が全て。そんなのは分かりきったことなんで、「PJMC」のメンバーには全くもって必要無し。
これから始まる青燕が余興と称する遊びが最大のルール。

今夜も「PJMC」のメンバーになりたい奴等がその最大のルールも知らないくせに、 青燕への目一杯のアピールか、無駄な吹かしに余念が無い。

そこに明らかに不快感を示す男「PJMC」No.4。
ヤツはこっからフリーウェイで10分弱の海岸を牛耳る強者。今日もジャンプスーツの下からトレードマークよろしく、アロハシャツの襟をこれ見よがしに器用に出してやがる。

その苛立ちを感じたのか、Viciousの名をTigerBoyにAcoBabyと変えられたガキが目を覚ます。おかげで辺り一面UMAのお出ましだ。
どこの世界に角が生えたウサギがいるってえの?あまりにも現実離れした風景に一気に和んじまったぜ。

2羽のカラスが限りなく月に近い位置から青燕にサインを送る。
ソファーに腰掛けたままの青燕の右手が上がる 。

いつの間にかこの国もSTATE制度を導入。
結局お偉い方がやっきになって推し進めたSTATE制度ってヤツは、誰も気付かない内に当たり前の物になっちまった。
だからと言って、気の効いた物なんてフリーウェイが出来たくらい。
日付変更線を越えた位置に存在する馬鹿デカイ国が、長い年月をかけてこの国を属国にする為に回りくどく推し進めて来ただけのSTATE制。
まだまだ属国になるには落ちぶれちゃいねぇ。
コイツらがいるからよ。
 
13th Avenueは青燕が来るってんで、Tiger Boyも気を効かせて道路封鎖もバッチリ。

次の「PJMC」のメンバーを狙ってる奴等が、青燕のGOサインと共に自慢の単車で通りに溢れかえる。
走りたくてウズウズしてたってのは評価に値するが、ここからが本番。
一番重要なルール、それが分かってるヤツがどれだけいるのか?
放っておいても生まれついての物なんで、コイツだけは説明しなくても分かるヤツは分かる。

「ロッケンロール!!!!!」
TigerBoyの興奮の雄叫び。
同時にニヤリとする青燕。

いた、いた、いた、いた!
いるじゃねーか!サイコーじゃねーか!
「PJMC」の奴等も単車に跨がる。

もっとビートを!もっとど派手に!!!
ヒントは「PISTOL JAZZ」のビートなんだよ!ルールは「PISTOL JAZZ」の弾き出すリズムなんだよ!セッティングが重要なんだよ!
この感覚だけは理屈じゃねーんだよ!

この「PISTOL JAZZ」のビートを共有出来るヤツがこそが「PJMC」の真実。リズムを共有出来るヤツこそが「HARD JAZZ」の称号得、「PJMC」メンバーとして迎えられるのだ。

そして「PISTOL JAZZ」のイカれたアイツ等こそが、ガキの頃単車でビートを奏で、リズムを共有したことで自然に楽器を手にしたことから発生した真実の3人。
「PJMC」はこの感覚で自然発生した集団。
ビートとリズム以外に何が必要?
ポーズじゃねーんだよ。
この感覚が分かるかい?
これが「PISTOL JAZZ」、そして「PJMC」の最大の真実なんだよ。
どれだけ「PISTOL JAZZ」の音に合わせ、お前等の魂を単車に乗り移らせる事が出来るかなんだよ。どれあけあの感覚をバップ出来るかなんだよ。

分かったふりして気取ってんじゃねーよ!
軽々しく「PJMC」気取るんじゃねーよ!

魂の共鳴。
魂のルール。

売国奴のおかげでこの国の通信網はズタズタになり、この国の全ての情報までもが用意周到に張り巡らされたシナリオによって、全てがフルコピーの上書きこそが真実の国に簡単に持っていかれちまった。
情報が脳に簡単にインストール出来るおかげで、そこの国民にとっては真実が国家レベルで都合よく変わっちまう。
売国奴…。アイツを時代の寵児とのさばらせたこの国の政治家とマスメディア、そして熱狂的に指示した国民。
今じゃ危機管理の中枢は、国家予算に匹敵する資産を持つその売国奴に骨抜きにされ、最終的に電波までも乗っ取りやがったヤツのおかげで真実が全く見えなくなっちまいやがった。

「PISTOL JAZZ」、そして「PJMC」こそが真実。
 
「誇りを持って着ろよ」
青燕のセリフがやたらと印象的だ。

同じビートとリズムを共有出来たヤツだけが青燕の元へ呼ばれる。
選ばれない奴等は、なぜ選ばれないのかさえ分からず困惑した表情を隠せずにいる。

そして新しく「PJMC」に選ばれたメンバーは、No.4から受け取ったジャンプスーツを早速得意気に纏い、満足気な表情で青燕への最大の敬意を払い単車へ跨がる。
タンクにエンブレムを貼ることで、誰のテリトリーを走ろうとも「自由」。これからはおとがめ等無い。

散り散りに単車で舞う「PJMC」

「PISTOL JAZZ」
中毒性の極めて強い最新型波動ウイルス。
海賊。

「PJMC」
魂を共有する現代における「自由」
海賊。

「サイコーじゃねーかテメェ等!マジ、ロックだぜ!」
TigerBoyが叫ぶ。

「PISTOL JAZZ」のここ5年の活躍は凄まじく、今では使用を禁止されている過去の遺産を最大限にジャックすることで、各国にも爆発的にその感染者を増やしつつ有り、新たに「PISTOL JAZZ」の海賊旗を掲げる者達が現れ、遠隔によるその感染性の強さが証明される。
体制により一切の自由を奪われた国でも、ごく一部の熱狂的な信者が感染源を探り当てインストールに成功にする事で、地下組織として新たな海賊が生まれつつあると言う。

そして当局にマークされながらも、THE STATEを未だ受け入れる事無き組織が、その感染性の強さに目を付け組織への加入を強制するが、確固としたその意思と結束の元には揺らぐ事も到底無く、利用される事もまず無い。
海賊は海賊でしかないのだから。
 
13th Avenue 1300番地
「CLUB13」
鳴りが良いと評判のハコだ。

表にはズラリと並ぶ「PJMC」の単車。
エンブレムが誇らしげに闇に映える。
親衛隊のジャンプスーツも勢揃いだ。

外には入り切れない客が溢れかえり、通りは異様な熱気に包まれている。
今日のハコのまとめ役は13crue。
「PJMC」の親衛隊も増えた事だしお祭り騒ぎだ。

中では13th RECORDの移動式サウンドシステムから流れるジャングルビートに、フロアもガンガン熱を帯び、この国の最高気温なんてとっくに振り切りやがった。

「PJMC」のジャンプスーツ以外にもやたらと目に付く「PISTOL JAZZ」のTシャツを着たオーディエンス。
今夜はエリア「MUROTO」からの猛者も多そうだ。

ジャングルビートがSEに切り替わる。
暗くなったフロアに、異様な緊張感が走り「PISTOL JAZZ」を待つ奴等が雄叫びをあげる。

さあ、出番だ。
暗闇に3人の海賊のシルエットが浮かび上がる。

「We are PISTOL JAZZ!!!!!!」